経営分析できてますか?④~現場との溝を生む要因~


新しい変化

認知症の要介護3の利用者がケアマネから紹介されました。

この利用者さんは他の複数のデイサービスに通っていたものの、いずれも長続きはしなかった。
行きたくないと自ら拒否することもあれば、事業所から対応できないから
と断られることもあったからだ。

経営者の直美は、
こういう方にこそうちのデイサービスでご支援させていただきたい、
と二つ返事で引き受けた。

なるほど、たしかに対応は難しかった。

帰宅願望が強く、すぐに出入口にいってしまう。
外に出て行ってしまうと大変だが、カギはかけない方針なので、
職員がマンツーマンで付き添うことになる。
現場の人員がひとり減ってしまうので、業務が回らないことが生じてはいたが
なんとか頑張ってほしいと経営者の直美は訴えて、管理者の幸恵をはじめ現場もそれに応えていた。
そのかいもあり、2か月通えてもらえた。
それを喜んだケアマネは、また別の認知症の利用者さんを紹介してくださった。

現場はさらに業務が滞る場面がでてきていた。
つい先日、利用者さんへの目が行き届かず、移動中の転倒事故が起きかけた。
幸い大事には至らなったものの、一応、担当のケアマネさんにも連絡をした。
少しづつ職員間にはギスギスとした空気感が漂いだしていた。

兆候


いままでの利用者さんと接する時間が十分にもてない。
業務分担を見直すべき、という現場の声が頻繁に上がるようになっていたため、
管理者の幸恵は経営者の直美にその旨を伝えた。

驚いたことに、経営者の直美は、また認知症の利用者の紹介があったので引き受けるというのだ。
どうやらケアマネさんの間で、認知症の利用者対応が素晴らしいと口コミになっているとのことだった。
経営者の直美は、「もう一人、頑張って受け入れよう。そうしたら業務分担や体制を整えるから」と言った。
管理者の幸恵から、その旨を聴いた現場には、勘弁してよという空気が漂った。
その日から現場の士気は下がり、職員間のコミュニケーションも減ってしまった。
現場には、介護福祉士は管理者の幸恵を含め2名いるものの、他の職員は特に認知症対応の研修は受けていなかった。

経営者の想い


経営者の直美の母親は、認知症になり長期入院した後に亡くなった。7年前の出来事だ。
だから認知症の方にも安心して過ごせてもらえる家庭的なデイサービスにしたいという想いがあった。
デイサービスを開業して1年半、ケアマネさんからも口コミで評判になりつつある今、
現場は大変かもしれないが、もう少しみんなで頑張って乗り切れば大丈夫だ、
この機会を逃したくない、と思っていた。
管理者の幸恵は以前勤めていたデイサービスの同僚だ。
自分の想いに共感して開業に誘った。二人三脚で頑張ってきた。
彼女ならきっと現場をまとめて乗り切ってくれると信じていた。

事故は起こった


今日も利用中に激しい帰宅願望がでて、職員はずっとその認知症の利用者さんに
かかりっきりになっていた。
その日は午後からイベントもあり、みんなバタバタしていたので、
午前中のリハビリ時はとくに手薄になっていた。
比較的元気な利用者さんが多かったので、
管理者の幸恵は新人のA君に見守りをお願いしてもらったところ、事故は起こった。
以前、転倒しかけた利用者さんが、移動中に他の利用者さんの座る椅子の足にひっかけ
顔面から転倒してしまったのだ。
即、ご家族に連絡し受診していただいたところ、顔の頬の骨折だった。
特に今後の外科的治療はなく、自宅で安静にするようにとのことだった。

すぐに担当ケママネに報告した。
今日はご本人も疲れているだろうからと2日後、ご自宅で担当者会議を行うことになった。
経営者の直美と管理者の幸恵がご自宅に訪問し、ケアマネとご本人とその娘さんの5人で会議が行われた。
謝罪した後、今後の対応を話し合った。

ご本人も娘さんもひどく怒っていたわけではなかったので、
安堵しつつ事務所に戻ると担当のケアマネさんから電話が入った。

内容は、
「なぜ最初の事故で対策を講じていなかったのか
最近、訪問しても以前と様子が違うと感じていたこと
認知症の方の対応に気をとられて、今までの利用者さんへの対応や
サービスの質が落ちていると感じていた」ということ

そして最後に、もう今後は紹介しないかもしれない、とショッキングな言葉が出たのだ。
そのケアマネさんは、2か月に一人は紹介してくださるだけでなく、
他のケアマネさんにも広めてくれる、まさに上得意の方だった。


大きな落胆とふがいなさで経営者の直美は管理者の幸恵に「なにやってるの!」
と怒鳴りつけた。さらに「信頼していたのに裏切られた思いだ、あなたにはがっかり!」と言った。

生じた溝


翌日の金曜日に管理者の幸恵から、娘が熱をだしたので今日は休みます、と連絡が入った。
経営者の直美は、昨日は言い過ぎたなと感じていたものの、「ごめんね」ということができなかった。


月曜日に出勤した経営者の直美は、机の上に管理者の幸恵からの手紙があることに気が付いた。
手紙の内容は、


「現場からの不満は毎日のように聞いていた。
一度、直美さんにも報告し、相談もしたが、対処はしてもらえず苦しかった
しかし、直美さんの想いも知っていたので、なんとか対応しようと頑張ってきた
でも今回の事故が起きてしまった
起こるべくして起きた事故だと思うし
責任は自分にある
現場をまとめる能力がないことも痛感し
自信もなくなった
直美さんについていく気持ちが
徐々に薄れている自分がいたこと
今回の責任をとって辞める、ということ
以前から、声をかけられていた別の施設があり、見学も行ってみた
そこで勉強してみたいと思うようになっていた」

というものだった。


経営者の直美はしばらく呆然としてしまった。

うまくいっていると思っていた。
なのになぜこうなってしまったのか。。
状況を呑み込めず、頭の中を整理することもできなかった。

ただひとついえることは、自分の大切な右腕を失ってしまったということだった。

質問

経営者には、理想とするデイサービスへの強い想いがありました。
なぜ、このような事態になってしまったのでしょうか?
なにが間違っていたのでしょうか。


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