イルカショーからみたチームづくり「水族館は未来を映すミラー」


和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドに行きました。パンダが中国に返還されるニュースが出ていたので、開園時間が通常より早くなっていました。パンダは重要な外交手段であり、扱いも事細かに取り決めがされていることを知りました。動物園にとっては国賓なのですね。
それを知って見ると、まるで“皇帝”のようだなと感じました。

私が興味を引いたのはそのパンダではなく、その後に観たイルカショーでした。
水族館という存在の意義をあらためて問い直すきっかけとなりました。

イルカたちは、まるで「チーム」という概念を理解しているかのように、他の仲間のミスをすぐにカバーし合い、アトラクションを完成させていました。トレーナーとイルカの間には、単なる芸の練習以上の、深い信頼関係が感じられました。それで少し調べてみると、その背景には、日々の体調管理、コミュニケーション、そして動物の福祉と真剣に向き合うトレーナーたちの献身的な努力があると知りました。
また、イルカをショーに使うことへの倫理的問題を訴えている人たちの存在も知りました。

水族館には、「かわいい動物を見る場所」にとどまらず以下のような意義・役割があると思います。

🎓 教育の場としての役割:感じることで学びが始まる

イルカやパンダを通じて、子どもたちは生命の尊さや生態系の複雑さを体感的に学びます。実物を前にすることで、教科書では得られない「感情」と結びついた学びが可能になります。

🌍 環境保全・種の保存:未来を守るために

水族館は、絶滅危惧種の保護や繁殖を担う「最後の砦」です。また、海洋プラスチック問題や気候変動の影響を伝える発信拠点でもあります。来場者の「楽しみたい」が、いつのまにか「守りたい」に変わる場所です。

🎭 エンターテインメントと癒し:青い世界に心をゆだねる

水族館には、都市の喧騒を離れ、非日常の世界に没入できる力があります。大人も子どもも、ただ泳ぐ魚やジャンプするイルカに心癒され、「また明日もがんばろう」と思える。そんな感情のリセット空間なのです。

🧑‍🔬 研究・知見の蓄積:博士のまなざしで見る科学の最前線

水槽の裏側には、白衣をまとった“水の博士”たちがいます。イルカの行動分析や繁殖研究、病気の予防法の確立など、水族館は科学的な知見を積み重ねる現場です。飼育記録や観察データは、ただの記録ではなく、未来の海洋研究や動物福祉を支える宝の山。水族館は、子どもたちの夢とともに、科学の可能性も育てているのです。大阪の海遊館ではジンベイザメを海に戻す試みをしています。失敗し、亡くなっていもいますが、この経験やデータを共有し、少しづつでも前に進めることが科学の役割でもあります。

🐬 イルカトレーナーに見る“人材育成”と“多職種連携”のヒント

アドベンチャーワールドのトレーナーは、人間同士のチームワークだけでなく、異種間(人と動物)との信頼構築を通じて、動物同士の連携をも導き出しています。この力は、組織開発の場にも通じるスキルです。組織の中で「信頼」や「補完関係」をどう醸成するか――そのヒントが、水族館のショーの裏側に詰まっているように感じられました。

イルカにとっては決して、自然な環境にいるわけではありません。今では追い込み漁によって捕獲されたイルカの購入を廃止する水族館も増えましたが、水族館に現存するイルカの中にはそうやって連れてこられたイルカもいるでしょう。そんな事情をしっているトレーナーさんたちは、イルカを単にショーを成功させるための存在以上の仲間として接しているはずです。言葉を話せないから、生態の知見を得たり日々細かく観察して限りある環境のなかで最善を尽くしていると思います。

だからこそ、イルカ本来の幸せを考えて自己矛盾に葛藤するトレーナーもいるのではないか、と思ったりもします。

そのような心理的要因だけでなく、トレーナーの雇用環境が長期雇用前提にあるともいえない面もあり、辞めてしまう人も少なくないようです。ですから、ソフト面の施策として、トレーナーとしての役割や意味をより広い視野から教えてくれる上級トレーナーの存在や、科学的知見を学者から学ぶ研修、他の水族館のトレーナーと意見交換する場をつくること。ハード面の施策として、キャリアパスを設けて長期的視野で働ける人事制度の整備・運用を行うこと、この2点が大切だと思います。

トレーナーとして得たチームビルディングの知見や信頼関係の築き方は、他の分野の仕事においても大いに活かされると思いますが、好きでついた仕事なら、長く続けて水族館の意義や役割を深めていただきたいな、と勝手ながら思いました。


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