労働時間とは①


労働時間の管理は、労務管理の重要項目の1つです。
厚生労働省は2017年に労働時間管理に関するガイドラインを出しています。
2020年4月以降の賃金支払いにともなう未払い残業代は、3年間さかのぼって請求できるようになりました。

しかし実態は会社独自の慣習でなんとなく行っている、という事業所もいまだに多いのではないでしょうか。
その理由は、
①労働時間に関する知識が曖昧
②労働時間を管理する体制が整っていない
③今まで特にトラブルになったことがない

などが考えられます。
しかし、急に従業員からきちんと残業代支払ってください、と言われてあわてないように、
労働時間とは何か?を理解した上で、適正な労務管理を実施することが管理者には必要です。

労働時間とは

労働時間は、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間の除いた時間をいいます。
労働時間の種類には

①所定労働時間
②法定労働時間
③時間外労働
④変形労働時間制
⑤みなし労働時間制

の5つがあります。
ざっくり言うと、
①~③は労働時間管理を行うための基礎知識。
④は主にシフト勤務制のために活用するもの。
⑤は時間管理が難しい場合に活用するもの。

です。

まずは、所定労働時間と法定労働時間の違いをおさえましょう。
所定労働時間は、就業規則などに定められたその会社の勤務時間です。
法定労働時間は、労基法に定められた1日または1週間に労働させるころができる限度時間(1日8時間、1週40時間)です。

<A株式会社の勤務時間>
始業:午前9時
終業:午後5時
休憩:正午~午後1時

所定労働時間7時間です。
時給換算1500円の従業員が午後5時から午後6時まで1時間の残業をした場合、残業代は1500円です。

<B株式会社の勤務時間>
始業:午前9時
終業:午後6時
休憩:正午~午後1時

所定労働時間8時間です。
時給換算1500円の従業員が午後6時から午後7時まで1時間の残業をした場合、残業代は1875円です。

株式会社Aと株式会社Bの残業代の違いは、法定労働時間を超えていないか、超えているかの違いによります。
株式会社Aは所定労働時間が7時間なので、1時間残業しても法定労働時間内(1日8時間)です。
一方、株式会社Bは所定労働時間が8時間なので、1時間残業すると法定労働時間を超えてしまいます。

法定労働時間を超えて残業した場合は割増賃金が発生します。割増率は法定で25%と定められているので、
1500円×1.25=1875円となります。

つまり、例示のように所定労働時間が法定労働時間より1時間短い場合には、
1時間の残業をしても割増賃金は発生せず、通常の1時間分の給与が支払われます。

時間外労働とは

法定労働時間を超えて労働させることは原則できません。1日8時間を超えて労働させると労働基準法違反になります。
法定労働時間を超えて働いてもらうためには、労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、労働基準監督署に届出を行う必要があります。
これを36協定といいます。
この36協定の効力は、本来、労働基準法違反である時間外労働を免責するというものです。

1日8時間勤務の会社で始業時間が午前9時からのところ、
8時50分から朝礼を行った場合、この10分は時間外労働でしょうか?

厚生労働省が出しているガイドラインを見ると、使用者の「指揮命令下」に置かれている時間であることや、使用者の指示により参加することが「業務上義務づけられている」ものは労働時間ですから、朝礼で業務上の申し送りを行うのであれば時間外労働にあたります。

1日、10分程度でも?と思われるかもしれませんが労働基準監督署長通達では、
1か月の残業時間の合計を計算する場合に、30分未満を切り捨てて、30分以上を1時間として切り上げることは認められる」とあります。

毎日の10分でも、1か月20日間勤務すれば200分(3時間20分)ですので、3時間の時間外労働になります。
時給換算で1500円であれば、1500円×3時間×1.25=5625円の割増賃金が発生することになります。


慣習的に労働時間管理を行っていると、なんとなくそれで済んでしまうことがあります。しかし、中には外部の労働組合に所属していたり、法令知識をもつ従業員がいて、突然、残業代の未払いを指摘される可能性があります。このようなリスク防止の観点だけでなく、従業員に安心して働いてもらえる環境を整備するためにも、まずは、労働時間とは何か?についての知識を有し、適切な労働時間管理につなげていきましょう。

まとめ

・所定労働時間は会社が定めた勤務時間。法定労働時間は労働基準法で定められた労働時間。
・法定労働時間は1日8時間、1週間40時間を超えない範囲で行う。
・法定労働時間を超えて労働してもらうためには、36協定が必要になる。
・法定労働時間を超えた労働(時間外労働)には、25%の割増賃金の支払いが必要になる。
・1日10分でも、労働時間にあたれば残業になる。
・労働時間に該当するものは、使用者が業務として指示(黙示的なものも含む)していること。


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